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「流石のお前でも、これなら逃げられないだろう?」 頭上から掛けらた言葉に、スザクは心臓が早鐘を打つのを感じた。 ソファーに座りいつの間にか転寝をしていたらしく、直ぐ側で聞こえた声に一気に意識が浮上し、同時に我が耳を疑った。 そして、今自分が置かれている状況に目眩さえ覚えていた。 背後の人物は、行儀悪くソファーの背に腰を下ろし、スザクの頭をその両の太ももで挟み、スザクの腕と脇腹の間に埋めるように両足を下ろしていた。まるで肩車をしているような、身動きの取れない体制。しかもすぐ傍に、体温を感じるほど近くにルルーシュがいることに、心臓がどうにかなってしまうのではないかと、スザクはパニックを起こす寸前になっていた。 「で、殿下!?」 あまりにも近い距離とこの体制。 焼き切れそうな理性を総動員させ呼ぶ声を視し、ルルーシュは言葉を紡いだ。 「なあ枢木、お前はどうしたい?何を望んでいるんだ?」 「じ、自分は・・・」 望んでいることなど決まっている。 昔は何度も口にした言葉。 いや、つい最近まで口にし続けていた言葉。 保護でも、情けでも、偽りでもない。 本当の、騎士になりたい。 ルルーシュの、騎士に。 そうだ、なんで僕は逃げていたのだろう。 逃げては駄目なんだ。 逃げていては、永遠に彼の騎士にはなれない。 意を決して思いを口にしようとしたが、先に口を開いたのはルルーシュだった。 「俺は常々思っていたんだよ。俺はお前を正式な騎士になどしたくはないが、偽りとはいえこうして傍に置いている。この状況は、お前のためにはならないと」 騎士にしたくはない。 何度となく言われ続けていた言葉を再び告げられ、スザクは唇をかんだ。 求められていない事は、誰よりもよく知っている。 騎士として傍にいる事を疎まれていることも、解っている。 この人の騎士になる為には、自分にあと何が足りないのだろう。 身体能力は十分合格点だと自負しているから、やはり頭の方だろうか。 あるいは周りの者達同様、外国人を騎士になど、恥ずかしいと思っているのだろうか。 ルルーシュの専任騎士であるスザクが、偽りの騎士だと誰もが知っている。 本来なら、偽りとはいえ騎士にもなれなかった関係だ。 これはまだ二人が幼かった頃、スザクを守るために渋々交した主従の契約にすぎない。あの頃は、この方法でしかスザクを守る事は出来ず、母マリアンヌと、非公式ではあるが父シャルルに説得されたとも聞いている。 だが、騎士となった後もルルーシュはスザクを騎士として扱う事はなかった。護衛として扱う事もなかった。それを見かねたジェレミアが、親衛隊と共に護衛に回れるよう手をまわしているが、ルルーシュがそれを不愉快に思っている事は誰もが知っていた。 ただ、スザクを保護するためだけに交しただけの主従契約。 本当の騎士にするつもりはない。 名前だけの騎士。 だがいつか「これが俺の騎士だ」とルルーシュに胸を張って言ってもらえるようにと、スザクは騎士としての訓練を、教育を受け続けた。やがて周りからもその能力の高さから一目を置かれるようになり、あれほどの者を傍に置きながら正式な騎士にとして扱わず、その才能を腐らせるのだから、やはりあの皇子は無能だと、陰口をたたかれるようになってしまった。 スザクのせいで広まった悪評をどうにかしようと手を回せば回すほど、スザクの評判は上がりルルーシュの評価は下がっていった。 主の評価を上がるのが騎士だと言うのに、反対にマイナスにしかなっていない。 だから余計にルルーシュに疎まれているのだ。 どうにかしなければと、スザクは常に打開策を探していた。 そんな時に出会ったのがルルーシュの妹。 第三皇女ユーフェミアだった。 |